
平和な、村だった。
街というほど大きくはないが、旅人が立ち寄れば活気のある村だと思っただろう。しかしその村には、外の者には言えないある秘密があった。
「次のデザストルは儀式の日だ….」
その村は闇の魔術を使うが故に迫害された者たちが寄り添い生まれた村だったのだ。闇の魔術は時には霊も操るため、人を弄ぶ悪しき魔法と見做され、災いを齎す者として処刑されることも珍しくない。その魔術を扱えるものは、放浪する定めにあるのが常だった。
はじめは数人が隠れ住むような集落だった。
1人1人と似た境遇の者が集まるにれ、隠れるのは無理なほど集落は大きくなった。誰もが限界を感じたその時、その集落で魔力が最も高かった魔術師が言った。
隠れ住むのはやめよう。その代わりに魔術を隠そう、と。
彼らは地下に闇の魔術を司る神の神像を造り讃える神殿を整え、その上に村を築いた。神殿への道は巧妙に隠し、村長が侵入者を見張る役目を負った。
初代村長には、最初の発言をした魔術師がなった。
彼は人の目につくところでの魔術に関する発言は全て禁止する掟を立てた。儀式に使う道具も、霊を操る媒介も、何もかもを隠させた。
そうして魔術と霊力を隠してその村は出来上がった。
闇の魔術の世界では、4年に1度エオストルの夜の日に神へ供物を捧げる儀式を行うと加護が得られる習わしがあった。
その年最も良く育った交尾をしたことがない雌鶏を供物にして、雌鶏の飼い主が厳格なる術式で厳粛に行うその儀式。
何もかも隠したけれど、彼らはそれらを捨てたわけではない。彼らは隠れて、儀式を行い、魔術を使った。
村は確かに豊かになった。
彼らの間違いは、その儀式の術式を含む全ての術式を後世に口伝のみで伝え始めたことだった。
4年に1度の儀式。
誰が完璧に覚えていられようか。
長い年月がたつ内に儀式は少しずつ変容していった。
誰かが聖別の仕方を忘れ、誰かが呪文の一部を忘れ、誰かが生贄にすべき物を忘れた。
ニアスという青年が村長の座についた頃には元の儀式の面影など欠片も残っておらず、その年の清らかなる少女を生贄に捧げる、おぞましい物へと変貌していた。
儀式の日が近づくと、誰が生贄になるのかと村中はピリピリしたし、少女たちは自分達が生贄になるかもしれないと怯えだした。
長年続いてきた伝統というものは人の心を惑わせる。儀式をやめるという選択肢は、彼らには最初から頭になかったのだ。
村長の娘として生を受けた少女、オフィリアは格別霊力が高くて、1番生贄候補だった。誰もがオフィリアが生贄に選ばれるだろうと思っていただろう。しかしニアスは、オフィリアではなく別の少女を生贄に選んだ。
「なんで!私よりオフィリアの方が霊力が高いじゃない!」
生贄の少女は最後の最後まで抗議していたが、それが聞き届けられることはなかった。
その年のデザストルは、滴る血の色をした紅月が浮かんでいた。
夜の帳が降りきった真夜中。
数人分の人影が地下神殿に揺らめく。村長たるニアスと、生贄と、術者と、術者を補佐する役目の村人たちだ。
彼らは一様に黒い祭服を纏い、聖なる燭台の灯りの中誰もが無言で祈りを捧げる。
「〜〜!!〜〜〜っ!!!」
口元を塞がれたまま、災壇に縛り付けられた少女。限界まで見開かれた目は助けを希うように父親を映す。だけど少女の叫びは届かない。
少女の胸に、術者たる生贄の少女の父親がアセイミーを振りおろす。そうして、魔法円より術式を施し、儀式は滞りなく終わるはずだった。
生贄となり死んだ少女の怨念か。
変容しすぎた儀式の内容が、入り口となって。
おぞましいほどの気が神殿に満ちた。
『我等を呼び寄せたのはお前たちか?』
村人たちの前に現れたのは、3柱の悪魔だった。
神への供物を捧げたつもりだった術者は予期してなかった悪魔の来訪に驚き、手に持っていなければならないペンタクルを落としてしまった。
『愚かな人間たちよ。我等を起こした代償を支払ってもらうぞ…』
3柱の悪魔の姿が目の前から消えると、無数の下級悪魔たちが顕現し、コウモリに、蜘蛛に、棺に乗り移り牙を剥く。ニアス達はようやく自分達が置かれた状況を理解し、慌てて神殿から逃げた。
儀式に参加していない村人たちは突然現れた悪魔達に混乱していた。彼らにとっては突然モンスターが襲ってきたのと同じことだ。
彼らは魔術道具を持ち、各々術式で応戦した。見事な術式で悪魔を祓う者がいる一方で、失敗し異形に成り果てる者もいた。そう、口伝での継承の歪みは儀式だけではなかったのだ。
優秀な魔術師たちが結界を張る中に、神殿から命からがら逃げてきたニアスたちが合流する。その傍らには屋敷から連れ出されたオフィリアもいた。怒った出来事が共有され、村の命運がかかっている話し合いが始まる。
このままではいずれ魔力が尽き結界が破られ、村は全滅してしまう。村を捨て逃げることに誰も異論はなかったが、問題があった。ただ逃げたところで、奴らは追ってくるだろうということ。
何か悪魔たちから目をそらさせる手段が必要だ。
誰が死ぬことになっても。
「悪魔の好物は霊力…だったよな?」
誰かが思い出したように言葉を発した。それを機に村人中の視線がオフィリアに集まる。一際霊力の高いオフィリアが結界から離れれば、たちまち悪魔たちはオフィリアに惹かれて集まるだろう。その隙に逃げることさえできれば。
ニアスは迷っていた。
可愛い可愛い愛娘。生贄になんて捧げたくない。しかし自分はこの村の村長。村人を守る責務がある。たとえ、娘を差し出さなくてはならぬとしても。
彼の不運は、持って生まれた強い責任感があったことだろう。
「オフィリア、こっちへおいで」
ただならぬ事態に不安げな顔をして、腕にお気に入りの人形、マカブルくんを抱いたオフィリアがやってくる。
「オフィリア、今から悪魔祓いの儀をする。しかしそのためには霊力の強い人間が神殿で祈りを捧げなくてはいけない。今村で霊力が1番あるのは君だ。…わかるね」
神妙な顔で頷くオフィリアを、ニアスは強く強く抱きしめた。もう二度と触れることはできないのだろう娘の温もりを、身体中に焼き付けるように。
「お父様、行ってきます」
結界の力が込められたケテルを授けられたオフィリアは、結界から離れ、マカブルくんを抱きしめたまま1人神殿に向かう。
オフィリアは聡い子だった。だからたった今父たちが教えてくれた術式がでたらめだったのもわかっていたし、自分がこの後死ななければならないことも気づいていた。
(きっと、この間にみんなが村から逃げるの)
その頃村の中心では、倒した悪魔たちを燃やした炎に術式をかけ、瘴気をおこしていた。オフィリアに惹かれなかった悪魔たちを引き寄せるための餌だ。
(怖いけど….お父様が死んじゃうのは嫌)
母を早くに亡くしたオフィリアにとって、父のニアスが全てだった。死んだらお母様に会えるかしら、なんて強がりをしながらオフィリアは神殿にたどり着く。
濃厚な悪魔の気配。
姿は見えないが、呼び出された悪魔たちはまだそこにいる。
災壇の手前、先程までニアスたちが儀式を行っていた魔法円の中心にひざまづいたオファリアは、たどたどしく詠唱をおこなう。
闇の中から視線を感じる。
オフィリアは、授けられたケテルを身体から、離した。
途端に、3柱の悪魔が姿を現して、オフィリアに襲いかかる。
声が、聞こえた。
生きたかったと泣く少女たちの呻きが。
この村に生まれた故の嘆きが。
この村が存在することへの憎悪が。
コウモリの悪魔が血を啜る。
棺の悪魔が臓物を抉る。
蜘蛛の悪魔が肉を食らう。
霊力が高い格別なディナーに一心不乱に食らいつく。
痛くて、痛くて。
父のため、と決意した気持ちもどこかに吹き飛びそうな拷問のような痛み。
(….本当は)
薄れる意識の中、オフィリアの本音が音もなく、漏れた。
(私ももっと、生きたかったな…)
零れた涙が、最後の引き金になった。
今まで犠牲になった者たちの怨念が、オフィリアの霊力が、想いが、1つとなって世界が闇さえも塗りつぶす黒で染まる。
“邪神”ヴァンデッタが、顕現した。復讐の名を冠する、闇の王。
悪魔たちさえも彼らの王の出現に、手を止め頭を垂れる。
ーーーー怨念聞き届けたり
生まれ出た闇はゆらりと揺れると、空気が闇色に震えた。村を脱出したばかりの村人たちにもその闇は届いていた。一瞬のことに、それがなんだったのか考える者は居なかったが。
その後。
村を捨てた村人達は他の場所に村を作り、新たに村人も増やして生活していた。しかし、ニアス以外のオフィリアを生贄にしたときその場にいた者たちにだけ奇病が流行り、終には全員息絶えた。
ニアスはあの日召喚してしまった3柱の悪魔を忘れられなかった。自分が決断したこととはいえ、オフィリアを忘れることができなかったニアスは長い年月をかけて、蜘蛛と棺の悪魔は見つけ、倒すことに成功したが、遂にサグザールと名前だけは突き止めたコウモリの悪魔だけは、倒すことが出来なかった。
(もう一度会いたいとはいえない。でも、せめて罪滅ぼしを)
荒れ果て、瘴気に覆われ、墓場には時折少女たちの悲鳴と共に怨念が徘徊すると噂されるかの村で、死して尚、ニアスの魂は彷徨い、冒険者に語りかける。
『どうか、この老いぼれの最期の願いを聞いてくれんか…』
-- 嗚呼、今なお悪夢を「彷徨う魂」に永遠の安らぎあれ。
真面目な考察内容
廃村は私が知る中で一番しっかり背景の話がある階層だと思います。おおよそのストーリーは2017-07-03開催の廃村実装記念イベント『彷徨う魂』をベースにして構築しています。
多分検索すれば当時のイベントの動画あるんじゃないかな。

オフィリアとマカブル君はこのイベント時の実装キャラだったので関係者確定。オフィリアの説明文を見ると、「非業の最期を遂げた」とあるので、かわいそうな死に方をしたのだろうと推測が立ちます。

このイベントを進めていくと『飛び抜けて霊力の高い少女を生贄に捧げて、その間に村を脱出した』と言う情報が開示されるため、オフィリアが生贄になったのでしょう、これは間違いなく….。で、何の生贄になったのかといえばその後冒険者に依頼を出して来る老人の名前が「ニアス」で、彼の依頼内容が「あの子の霊力を得た悪魔の討伐」なので、オフィリアが悪魔に生贄にされたと言う全貌が見える感じになってました。
依頼をクリアしてニアスに報告すると、確かニアスが消えちゃうので、「おじいさんも幽霊だったんかい….」となった思い出。
話の中にちょろっと出て来るアイテム各種はイベントアイテムです。
ケテルが王冠(セフィロトの樹でお馴染み)
アセイミーが魔女が使う両刃の剣
ペンタクルスが護符みたいなやつですね、悪魔召喚系の文章に出てきがち

悪魔が3柱なのが、ニアスが提示した悪魔が蝙蝠型だったのでタステラー系列が悪魔だなぁと言うのの他に、マデズリーのペット設定が「棺の形の悪魔」なので悪魔確定。イズュームは逆に「術式に失敗した者の成れの果て」なので人間の犠牲者確定。ってなったらまあ蜘蛛は悪魔側だろうな….と言うことで悪魔側。

ソウルスの地下神殿が「祭壇」ではなく「災壇」なのはわざとです。
だってそう言うクエストがあったから。

と、こう言う諸々の情報のかけら達を組み合わせると、まあ、概ねああ言う物語だったんじゃないですかね、みたいな。
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